第6回 生得的行動
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1. 初期学習, あるいは生得的行動
遺伝によって決まっており、経験によっても変容はしない行動 心理学や関連領域で使われる概念
本能は日常用語でも使われるため
進化の過程で備わった、当該の種に特有の性質であるとも言われる 「行動の変容」
より正確には「経験を通した比較的継続的な行動の変容」 「経験」とは「行動の履歴」と言える
通常は個人の誕生後
ここでも誕生後の「行動の履歴」としておく
誕生前(受精〜胎児期)についての研究も蓄積されている
誕生後の「行動の履歴」が、現在/研究対象の「行動」に何らかの影響をもたらしている
「行動の履歴」の初期の経験
経験の蓄積がほとんどないために、生まれついて持っているだろう何らかの構造や機能によって、行動を為すということ
生得的行動と同じ文脈で検討されることが多いと言える 2. 生得的行動の分類
という回路が想定されている
刺激-反応の一対一の関係対応として捉えることができる
外部から直接観察することができない
table: 誘発刺激(無条件刺激)と反射(無条件反応)の対応関係
外部からでも観察することが可能
table: 誘発刺激(無条件刺激)と反射(無条件反応)の対応関係
新生児から乳幼児期に観察されるが、その後成長とともに消失して観察されなくなる
頭の位置が急に変化したり、急に騒音がして驚愕することによって、手足がパッと伸びてからすぐに戻る反応
口や唇に触れたものを吸う
口や頬に触れるものに頭を向ける
たとえば、探索反射と吸啜反射という初期学習を繰り返しながら母乳を得て栄養を摂取ることができるようになる、ということ
個体全体としての行動の変化
反射は個体の一部に見られる行動の変化
ある特定の刺激に向かっていく、あるいはある特定の刺激から離れていくというような移動の変化、定位
走性と同じように個体全体としての移動であるが、定位はなく、一定でないランダムな変化として観察されるもの
乾燥した場所では活発に動くが、湿った場所では緩慢になり動かなくなることも観察されている
生息環境では水分が点在しているので、このような動性は適応的であると考えられている
複数の行動が連続して起こるもの
反射や向性・走性・動性は行動としては1つの行動
動物に見られる一連の行動
生得的で、種に固有であり、その一連の行動がまわりに環境に関係なく起こってしまうもの
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トゲウオのオスは繁殖期に他のオスが縄張りに入ってくると、そのオスに対して攻撃行動を起こす この行動は、婚姻色である赤色によって引き起こされることが実験で示されている 姿形が似ている木型(N)
姿形が異なるが腹だけ赤色の木型を複数種類(R)
攻撃行動が観察された
固定的活動パターンを誘発する刺激
人工的な刺激によって、固定的活動パターンを引き起こすような刺激
固定的活動パターンは行動の連鎖として強固であるために、実際には関連する刺激が無いにも関わらず、その刺激があるかのように行動が続くことも観察されている
排卵中のハイイロガンは巣の外にある卵を巣に引き戻す一連の行動を取る
巨大な斑点のある卵(超常刺激)に対して強く現れるばかりか、途中で卵が取り上げられても、一連の卵を転がす行動を最後まで続けることが観察されている
一連の反応のそれぞれの開始が、適切な刺激に依存しているもの
固定的活動パターンとは区別されている
発情期のオスはメスが近づく(という刺激が現れる)とジグザグダンスと呼ばれる求愛行動を示す メスのとどまり反応(という刺激)によってそのメスを巣に引き入れる行動をとる メスがとどまらずに逃げてしまう反応(という刺激)によって、オスは巣への引き入れ行動は取らない
動物は特定の刺激が先行していなくとも、探索行動や移動行動を自発することは認めることができるだろう 乳児は
最初は明確な「声」としての発声と認めることは困難ではあるが、
発声器官を使って、前言語的な行動を自発しているということは認めることができるだろう
自発的に手足を動かす
探索行動として解釈することができるだろう
これらの原子自発反応は、習得的行動の「原型」の1つになっていくと捉えることができるだろう(坂上・井上, 2018) 3. 刻印づけ
ある特定の刺激によって反応が引き起こされると、それが半永久的に消失しないことから
「ヒトでもそれ以外の動物でも、生まれた直後は極めて頼りない存在であり、それだけに環境の影響を受けやすい状態にある。だからこそその時期には、普通の環境に普通に生活しておれば正常に育つような仕組みが動物に備わっていても不思議ではない」(今田, 2000) 刷り込みが成立するための一定期間
生得的行動、習得的行動の両方の側面を持つ
生得的行動: 刻印づけに関わる行動は、発達の初期にのみ行われる学習で、遺伝的に学習可能な時期もある程度決まっている 習得的行動: 実際に反応してみることで、刺激と反応との組み合わせが変更可能である 4. 生得的行動としての言語行動、あるいは言語習得の理論について
人間は「白紙」の状態で生まれてくる
言語行動を含め人間の行動は経験を積み重ねることによって獲得される 人間は何らかの能力を持って生まれてくる
それが発達に伴って開花してくる
あるいは新生児や乳児は、言語に特徴的な反応を示すという研究も蓄積されていることもある
言語行動とは人間という種に特有のものであることを認めるということは、必要条件として生得説の立場に立っていると言える
しかし、やはり生まれた後の経験や学習も必要であろうということで相互作用説の立場が主流と言えるだろう 厳密には相互作用論と捉えることもできる
生後の言語環境に応じて、乳幼児は母国語の文法の様々なパラメータを設定していくと主張している
やはり相互作用論に立っていると捉えることができる
周りの大人が子供の言語習得に果たすサポート機能
乳児は大人との相互作用という、実際の言語利用を通して、語用論的な知識である、他者意図の理解も獲得していくことになる トマセロによる
言語習得の理論
たとえば乳児の音素学習においては、周囲の大人の会話から高い頻度で発せられる音素を選択的に学習するという考え方 周りの大人との会話とそれに反応する乳児の社会的能力とが必要条件であるため
やはり厳密には相互作用論と捉えることができる
言語習得の臨界期
当たり前の相互作用を経験できない場合にどのような言語習得の結果になるかという事例的な知見
言語行動に著しい困難が認められている
言語という特定の刺激に対して人間の脳が最も効果的に学習を遂げる時期
母語の音韻学習が典型的なもの
生後10ヶ月くらいまでと言われる
脳が環境からの入力に影響を受けやすい時期
臨界期よりも長期であり、思春期くらいまでと言われる
言語習得については、その完成形とはなにか?という根本問題もある
言語習得の臨界期や敏感期の議論は重視する必要がないという考え方もある つまり、人間は言語を一生涯にわたり学習し続けていく、ということ